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稲盛和夫の実学 - 経営と会計
   序章.2 私の会計学の基本的な考え方<本質追究の原則>
P26-28,31-34より

〜 稲盛和夫(京セラ名誉会長) 〜
ここでは私の経営学、会計学の原点にある基本的な考え方について説明したい。

原理原則に則って物事の本質を追究して、人間として何が正しいかで判断する
物事の判断にあたっては、つねにその本質にさかのぼること、
そして人間としての基本的なモラル、良心にもとづいて何が正しいのかを基準として判断をすることがもっとも重要である。
二十七歳で初めて会社経営というものに直面して以来、現在に至るまで、私はこのような考え方で経営を行ってきた。

私が言う人間として正しいこととは、たとえば幼いころ、
田舎の両親から「これはしてはならない」「これはしてもいい」と言われたことや、
小学校、中学校の先生に教えられた「善いこと悪いこと」というようなきわめて素朴な倫理観にもとづいたものである。

それは簡単に言えば、公平、公正、正義、努力、勇気、博愛、謙虚、誠実というような言葉で表現できるものである。
経営の場において私はいわゆる戦略・戦術を考える前に、
このように「人間として何が正しいのか」ということを判断のベースとしてまず考えるようにしているのである。

何事においても、物事の本質にまでさかのぼろうとはせず、
ただ常識とされていることにそのまま従えば、自分の責任で考えて判断する必要はなくなる。
また、とりあえず人と同じことをする方が何かとさしさわりもないであろう。
たいして大きな問題でもないので、ことさら突っ込んで考える必要もないと思うかもしれない。

しかし、このような考え方が経営者に少しでもあれば、私の言う原理原則による経営にはならない。
どんな些細なことでも、原理原則にさかのぼって徹底して考える、それは大変な労力と苦しみをともなうかもしれない。
しかし、誰から見ても普遍的に正しいことを判断基準にし続けることによって、初めて真の意味で筋の通った経営が可能となる。

経営における重要な分野である会計の領域においてもまったく同じである。
会計上常識とされている考え方や慣行をすぐにあてはめるのではなく、改めて何が本質であるのかを問い、
会計の原理原則に立ち戻って判断しなければならない。

そのため一般に認められている「適正な会計基準」をむやみに信じるのではなく、
経営の立場から「なぜそうするのか」「何がその本質なのか」ということをとくに意識して私は問いかけるようにしてきた。


常識に支配されない判断基準
常識とされるものが人の心をいかに強く支配するかということを、私が若いころ実際に経験した例で説明したい。

以前、「歩積み・両建て預金(ぶづみ・りょうだてよきん)」というものが一般的に行われていた。

昭和三十四年の京セラ創業当時には銀行で手形を割り引くたびに、
一定率の「歩積み」預金を行い、銀行に積み立てていくことが当然のことのように行われていた。
銀行で受取手形を割り引いてもそれが不渡りになれば、銀行がリスクを負うわけではなく、当社がその不渡手形を抱えなければならない。
しかし、なお銀行は当社が約定通り不渡手形を買い戻してくれるかが心配なので、その担保として「歩積み」をとるというわけである。

これは「銀行のリスクヘッジのため」と一応の理解をしてみても、その歩積み預金は手形割引とともに積み上げるのみで、
手形の割引残高を超えても歩積みから解放されない。
社内で銀行の方から申し入れのあった歩積み率の引き上げが話題となった際に、
私はむしろ歩積みそのものがどうしても納得できないと考えて会議でその旨発言した。
しかし、経理を担当する者をはじめ周囲からは、歩積みをするのは常識であって、
それをおかしいなどというのは非常識きわまりないと笑われて相手にもされなかったことがある。

その後まもなく、このような歩積みや両建てという慣行は、銀行の実質収入を上げるための方便にすぎないと批判され、廃止された。
これを見て私は、「いくら常識だといっても、道理から見ておかしいと思ったことは、必ず最後にはおかしいと世間でも認められるようになる」と自信を持った。

 (中略)

これらの例はいわゆる常識というものに、あとで考えれば不思議なほど、簡単にとらわれてしまうものかをよく示していると思う。

もちろん、私は常識とされていることをとにかく頭から否定すべきだと言っているのではない。
問題は、本来限定的にしかあてはまらない「常識」を、まるでつねに成立するものと勘違いして鵜呑みにしてしまうことである。
このような「常識」にとらわれず、本質を見極め正しい判断を積み重ねていくことが、絶えず変化する経営環境の中では必要なのである。

以上述べてきたものは、私の思想の原点となる基本的な考え方である。
それゆえ、経営においてもすべての考え方の根本となるものであり、会計の分野においても、もちろん貫かれなければならない思想である。

稲盛和夫の実学 - 経営と会計レビューより、原理原則に則って考えることについて述べられている参考文献として一部紹介しました。

原則思考原則を元にした思考法)の元になる考え方と言えます。


稲盛氏の経営哲学は京セラのwebページにて紹介されています。

また、私のブログにて関連記事を書いていますので、興味のある方はこちらの記事(稲盛和夫)へどうぞ。