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書籍:ものづくりの三原則―世界に通用する創造力を育むために より

〜 ものづくりの三原則―世界に通用する創造力を育むために 〜
「原理・原則」に従えば、物事の本質が見えてくる

はじめに(P.3)
のっけからタネ明かしをすれば、この書籍の本当のねらいは、
就職を控えた技術系の学生やエンジニア志望の人たちに読んでもらい、就職活動の一助になれば……である。
この本には特に理系の人たちが「おっ」と振り向き、「そうなんだよ」とうなずく内容が盛り込まれている。

しかし、それだけではない。
技術系業務に携わる人たちの経験や考え方がこの一冊には網羅されているが、技術の難解な話を、
事細かく説明して分かってもらおうとした本では決してない。
いくつかのキーワードが一貫してこの本には散りばめられ、読み進むうちにその言葉の持つ深い意味に気がつくだろう。

その一つが、「原理・原則」である。
登場してくる人たちはみなこの言葉を呪文のように唱える。
物事、事象、仕組み、構造……あらゆるものには原理原則があって、それを理解せずして新しいものは開発できない、と説いている。

と同時に、どんな仕事にも「成功と失敗の明確な原因・理由」があることは、だれもがご存じだろう。
しかし、明確な原因と理由を突き詰めて知ろうと努力する人間は、実はとても少ないのかもしれない。
成功か失敗かの結果のみにとらわれ、何がそうさせたのかには思いが至らない。
だからこそ、同じ失敗を繰り返す人が多いのだろうし、2度、3度と同じ成功を手にする人はほとんどいないのだろう。
原理・原則を突き詰めぬまま、次のステップに向かってしまうからである。


リンゴもプローバも「原理・原則」に立ち戻ったエンジニアの勝利(P.36)
MJC現会長の長谷川義榮が事あるごとに口にし、社員たちへ告げている言葉の一つに「原理・原則」がある。
あらゆる物事には原理・原則が存在し、まずはそのことを知りなさい、学びなさいと訴える。

逆に言うと、何か失敗したときには必ず原理・原則を見誤っているはずなのだ。
物事の本質ともいうべき原理・原則に従いなさい、ないがしろにしてはいけないと語り続けた。

その長谷川と会い、何度となく話を聞いているうちに、不思議なほど共通点が多い人物を思い出した。
無農薬・無肥料リンゴの栽培と収穫に成功した、農家・木村秋則氏である。

(以下略)


これからのエンジニアに必要な資質とは?(P.41)
MJCのこれまでの技術開発から製品化、そして企業としての成功をふりかえるとき、
この会社が何もない、ゼロからのスタートでここまで到達したことにあらためて驚く人も多いだろう。

長谷川義榮が自らも語るように、経験も学歴もなければ、方向性さえ決まっていなかった創業当初。
しかし、困難な技術開発の壁を何度となく乗り越え、さらにそれを製品化し、上場企業にまで築き上げた。
この40年間を支え続けたのはいったいなんだったのだろうか。

それが「原理・原則」だった。
エレクトロニクスの原理・原則とは何か、それをどう応用すればしっかりとした技術でユーザーに便利なものが作れるのか、
そして最終的にはお金を生み、新しい創造性をもたらすのか―長谷川は、極めて早い段階からこのことに気がついていた。
これらのことをやり続けていけば、他者に負けない競争力のある企業になれると。

だからこそ、その後、次々に入社してきた若い社員たちにはまず「原理・原則を知りなさい」と言い、
「観・感・勘をフルに発揮しなければいけない」ことを教え込んだ。


エレクトロニクスは進化していない(P.49)
資金面をまかない、恐らくは苦境の現場にも立ち会ってきたであろう藤崎が、「最近、すっごく気に入っている言葉がある」という。
創業社長であり、現会長の長谷川義榮が事あるごとに口にする
「エレクトロニクスが進歩しているわけでは全然ないんだよ。進化しているのは、エレクトロニクスをどう使うかという技術やアイディアなんだ」―である。

難しく考える必要はない。
物理現象の一つとして発生する「電気(エレクトリシティー)」には、そもそも「プラス(正)」と「マイナス(負)」の2種類あって、
これが互いにぶつかり合うことでエネルギーを持つ―という、昔からなんら変わっていないシンプルな事実を説いている。

少々、乱暴な言い方だが、同じように電流、電圧、電気抵抗、電力、直流、交流など、
すべてはもともと分かっている決まり、あるいは法則に則っており、何年経とうが変わることはない。

 (中略)

ここで大切なことは2つある。

一つは「電気は難しいと最初から構えるな。次々に登場する電気応用テクノロジーにしても、そのすべては原理からスタートしている」ということだ。
端から難しいと決めつけず、原理を理解したうえで学んでいけば、どんな技術も決して難解なものばかりではない。

裏を返せばそれはつまり、基礎理論をしっかりとマスターしなければ、どんな技術にも対応できないことを意味している。
長谷川はその点を「理論を押さえてあらゆる技術的課題を解決できない者は、エンジニアではない」とまで言い切る。

ここからMJCにおいて今日までしっかりと守られてきた「原理・原則経営」への道筋が見えてくる。
彼が言いたいことは極めてシンプルでストレートだ。
ある一つの決まりに沿って物事が動いているのならば、必ずそこを原点とし、迷ったときもそこに立ち戻ればいいじゃないか、ということである。


そして、大切なことのもう一点―これは言い換えれば、原理・原則の逆説でもある。
エレクトロニクスは進歩しておらず、進化しているのはそれを使う技術やアイディアなのであれば、
それをいかに使い、応用して新しい展開につなげるかは「我々の頭の使い方次第」ということだ。

言い方を変えるならば、原理・原則を徹底的にマスターしなければ、
次の展開も見えてこない、エレクトロニクスの応用もできないと言っているにほかならない。

 (中略)

探求心や問題解決能力といった観点からすれば、
明らかに「原理・原則を知ろうと努力する」タイプのほうが、さまざまな局面に対応する力を持つ。
エレクトロニクスは進化していると勘違いしていた人には、何事も「原理・原則」を意識する姿勢を、しっかりと身につけてもらいたい。


「原理・原則」に従えば、物事の本質が見えてくる(P.54)
この書には恐らくは何度も登場する言葉に「原理・原則」がある。
長谷川義榮が企業経営のメインテーマとして掲げ、堂々、全社員に対して訴えているメッセージだ。
いわばMJC社員の行動指針としてクローズアップされ、社員には名刺サイズの「行動指針カード」を携帯させるほどの徹底ぶりだ。
そもそも長谷川は、いつ、どこで、どのようにこの言葉を自分の胸に刻み込んだのだろう。

原理・原則というのは、作家の伊藤肇さんが書いた『現代の帝王学』(プレジデント社)に出てくる言葉。
 創業して3、4年経った頃かな、大阪に仕事で行ったときに駅の書店で手に取った。
 パラパラっとめくったら、この原理・原則が目に飛び込んできたんだ」
さっそく同書を購入、帰京する新幹線の車中で夢中になって読み進んだ。

「おお、そうだそうだなんて共感する部分が多くて、よし、これをうちの経営にも生かそうと決めた。
 原理・原則が分からない者に会社を経営する資格はない、と言い切るところも私は気に入った」

「例えば、私がその場にいなくても仕事が失敗しないように進めるためには、何が必要なんだろうと考えた。
 そこで重要な鍵を握っていたのがこの原理・原則だった。原理・原則に基づいていれば、私でなくてもうまくいくはずだ。
 これは私もそうだが、社員に教え込まなきゃって思った」

「あのときは口を開けば原理・原則って言っていた。そうやって社員の耳にたたき込んで、
 私や役員が不在のときでも事業が進むようにしておかねばならない。青森に工場を作って、それから次は九州に工場を作った。
 こうなると自分のいない場面でどんどん事が進んでいかなきゃならなくなる。
 電話でも、"原理・原則守ったかい?"と必ず聞いた。とにかくこの重要な部分に気づき、目覚めてほしかったんだ」

その結果―今では社員全員が"原理・原則"も"観・感・勘"も、
ものの見事に自分で受け止め、自分で消化し、日々の生活で息づかせていた。

 (中略・・・社員によるコメントが多数並ぶ)

―これらのコメントはたくさんあるなかのほんの一部だ。
原理・原則」を口にするときの彼らは、気負うこともてらうことも照れることもなく、ただひたすらストレートだった。
長谷川が一冊の本を読み、感動して胸に刻んだ行動指針は、今、間違いなくMJCという企業の血液となってほどばしるように流れている。

この話は一企業におけるものだけではなく、万人に共通する重要なテーマであることを、
それこそ原理・原則に立ち戻って見つめるべきだろう。


おわりに(P.166)
 (前略)

40年という年月を考えれば、MJCが"廃屋"となる可能性だって道すがら見かけた廃屋と同じようにあったわけだ。だがそうはならなかった。
それどころか、すでにベンチャー企業の域を超え、中堅から大企業への仲間入りを果たしつつある。
青森だ見た鮮烈なコントラストはまさにこの差であった。

これを実現したのは、いうまでもなく長谷川義榮会長の教えである「原理・原則」と「観・感・勘」を社員一人ひとりが理解し、
日常で実行してきた積み重ねにほかならない。
お会いした社員全員がこの2つを自分なりの言葉で説明し、実践している様子がうかがい知れる。
今回の取材でお会いした20人以上の社員の方々は、みな素朴で、しかし、ストレートに言葉を紡いでくれた。
シャイであまり話さないかもしれない……といった事前の心配は杞憂だった。

 (以下略)

ものづくりの三原則―世界に通用する創造力を育むために

本書は、株式会社日本マイクロニクス(MJC)という会社について、
フリーランスジャーナリストである市川徹氏が取材することでまとめられたものとなっている。

ゼロからスタートした企業の成功物語とも言えるが、
その成功の理由は「原理・原則」に従った経営があったからだと言えるのだろう。

行動指針 1.原理原則を大切にする。

新たな分野を切り拓き、発展していくためには、これまでの経験や常識、慣例などに囚われるのではなく、
物事の本質を見据え、原理原則に基づいた判断、発想、行動をするよう心がけることが肝要である。
また、人間として道徳、倫理を判断基準として行動することにより、人はどんな局面においても迷うことはなく、うろたえることもない。

会社概要より)

MJCは「原理・原則」を社員全員で共有することによって繁栄を続けてきた。
今回は、会社の方針として堂々と「原理・原則」を掲げているという、大変珍しい組織の事例として紹介させていただいた。

今後は全世界でも全人類によって「原則」が共有される時代がやってくるのではないか?とも予想される。
有益なものは必ず世界中へと広まって行く。そのこともまた「原則」によるものであると考えられる。


参考文献

その2:会社をつぶす社長は80%の”原理原則”を知らない。★★★

その6:原則は自明的な自然の法則といえます。★★★★★